大学院医歯学総合研究科歯科矯正学分野の植田紘貴助教(現:客員研究員)、菅 真有助教、宮脇正一教授、統合分子生理学分野の桑木共之教授らの研究グループは迷走神経の活性化が唾液分泌と嚥下様運動を誘発することを明らかにしました。本研究の成果は、米国の科学雑誌Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2016, 311(5), R964-R970に掲載されました。
【概要】
近年、我々の教室のヒトを対象とした先行研究より、消化管を支配する迷走神経が唾液分泌の調節に関与していることが推察されました。そこで本研究は、迷走神経の活性化が、唾液分泌と嚥下様運動に及ぼす影響についてラットを用いて定量的に検証しました。その結果、迷走神経の活性化が唾液分泌と嚥下様運動を誘発することが示唆されました。本研究は、我々の先行研究において観察された、逆流性食道炎などにより消化管へ酸刺激が加えられた際に唾液分泌と嚥下が惹起される現象の神経機構に関する理解を促進し、今後の唾液分泌や嚥下の研究に新たな方向性を示しました。
Ⅰ. 背景
唾液は、咀嚼・嚥下に必要な消化液であると同時に、抗菌作用や口腔を湿潤し保護する作用、重炭酸塩系らによる緩衝作用などを発揮することで生体恒常性の維持に寄与しています。唾液分泌は安静時でも一定のレベルで維持されていますが、食物の咀嚼時には味刺激や口腔粘膜への機械的刺激などによって反射的に分泌量が増加します。
また、迷走神経(図1)は副交感性の線維を含んでおり、12対ある脳神経のなかで唯一胸腹腔臓器を支配し、それらの機能を調節しています。ラットでは、腹側迷走神経幹に含まれる線維の70%以上が求心性であり、内臓感覚神経として機能しています。近年、ヒトを対象とした我々の先行研究において、消化管に対する酸刺激により唾液分泌および嚥下運動が促進されたことから、消化管を支配する迷走神経求心路が唾液分泌量の調節に関与していることが推察されました。そこで本研究は、消化管を支配する迷走神経の活性化が、唾液分泌と嚥下運動に及ぼす影響を定量的に検証しました。
図1. 迷走神経について
Ⅱ. 研究手法・成果
植田らのグループは、唾液分泌と嚥下の同時記録を行うモデルラットを作製し(図2)、内臓不快感を誘発する塩化リチウム(LiCl)後の唾液分泌量や左側迷走神経の電気刺激後の嚥下様運動と唾液分泌量を電気生理学的手法で記録、解析しました (図3、4)。
図2. 実験の概略図
以上のことから、消化管を支配する迷走神経求心路の活性化が唾液分泌と嚥下様運動を誘発することが示唆されました。
Ⅲ. 波及効果・今後の展望
本研究により、迷走神経求心路の活性化が、唾液や嚥下等の顎口腔機能の改善に有効であることが示唆されました。今後は最適な刺激部位、刺激頻度を調査し、唾液や嚥下等の顎口腔機能を回復する具体的な方策を検討していく必要があると考えられます。
Ⅳ. 論文タイトルと著者
タイトル Vagal afferent activation induces salivation and swallowing - like events in anesthetized rats
著者 Ueda H1), Suga M1), Yagi T1), Kusumoto-Yoshida I2), Kashiwadani H2), Kuwaki T2), Miyawaki S1)
1) Department of Orthodontics, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima, Japan
2) Department of Physiology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University, Kagoshima, Japan
掲載誌 Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2016, 311(5), R964-R970
http://ajpregu.physiology.org/content/311/5/R964
■矯正学分野HP
http://w3.hal.kagoshima-u.ac.jp/admission/overview/about/organization/ortho.html
http://w3.hal.kagoshima-u.ac.jp/dental/kyousei/clinic/index/index.htm