医歯学総合研究科の杉浦教授らの研究チームが、口腔機能の低下が認知機能の低下や身体機能の低下に関与していることを明らかにし、2021年4月12日に国際学術誌『Journal of Clinical Medicine』に掲載されました。
【概要】
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科は、垂水市と協働し、同市をフィールドとした「健康長寿(医療・高齢者対策)」の促進を目的とする取組み「たるみず元気プロジェクト」を平成29年度から実施しています。同プロジェクトでは、垂水市の市民を対象に、全身の検診・栄養状態・認知機能・口腔機能/口腔状態・身体機能等の検査を行い、その結果を市民の方々にお知らせしています。医歯学総合研究科顎顔面疾患制御学分野(鹿児島大学病院歯科部門口腔外科)の杉浦教授の研究チームは、同プロジェクトで得られた832人のデータから、口腔機能の低下が身体機能の低下及び軽度認知障害につながることを明らかにしました。
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主な調査結果
- 口腔機能低下は、心身の機能低下(フレイル)、全身の筋力低下(サルコペニア)、軽度認知障害のいずれとも関連している。
- 口腔機能低下の中でも咬合力(かみ合わせの力)の低下、と舌圧(舌の力)の低下は、フレイル、サルコペニア、軽度認知障害すべてに関連している。
- 嚥下機能(飲み込みの力)の低下は、フレイルとなる危険性を2.56倍増加させる。
- 咬合力低下は、軽度認知障害となる危険性を1.48倍増加させる。
- 低舌圧は、軽度認知障害となる危険性を1.77倍増加させる。
これまで、動物実験などでは、口腔の細菌が認知機能に影響を及ぼすという結果が出されていたものの、人を対象とした研究において認知障害と口腔機能が関連することが示されたのは初めてのことです。また、口の機能低下と全身や認知機能の衰えが強く関わっていることから、「老いは口から」を示した結果ということができます。
【今後の展望】
この結果は、口腔機能の低下を歯科治療で予防することにより、認知機能低下や身体機能低下(フレイル)を予防することができる可能性を示しています。
「たるみず元気プロジェクト」では、多職種が連携して、この先も継続的に健康のチェックと指導を行っていくことになっており、今回の結果に基づいて健康寿命の延伸に関する結果がお示しできると考えています。
【原著論文情報】
<タイトル>
Association of Oral Hypofunction with Frailty, Sarcopenia, and Mild Cognitive Impairment:A Cross-Sectional Study of Community-Dwelling Japanese Older Adults
<著者名>
Maya Nakamura, Tomofumi Hamada, Akihiko Tanaka, Keitaro Nishi, Kenichi Kume,Yuichi Goto, Mahiro Beppu, Hiroshi Hijioka, Yutaro Higashi, Hiroaki Tabata, Kazuki Mori,Yumiko Mishima, Yoshinori Uchino, Kouta Yamashiro, Yoshiaki Matsumura,Hyuma Makizako, Takuro Kubozono, Takayuki Tabira, Toshihiro Takenaka, Mitsuru Ohishi and Tsuyoshi Sugiura
<雑誌>
Journal of Clinical Medicine 2021, 10(8), 1626
【本研究に関するお問い合わせ】
顎顔面疾患制御学分野
杉浦 剛[Researchers]
研究室HP